ユメウツツ@MimeiTagawa

一生分のホットケーキ


 夢の話しをしようと思う。
 今まで見た夢の中で、心底、疲れた夢。


 小さな町の広場の真ん中に、小さな店がぽつんとある。
 小さな箱のような店には、大きな窓があり、その中ではミメオ(夫です)が、手際よくソフトクリームを絞り出している。しゅるしゅると、いくつも、いくつも。次々に並んでいくソフトクリーム。――お客もいないのに。

 あたしの仕事は、ホットケーキを焼くこと。

 ホットケーキのタネの入ったおおきなステンレスのボールを抱え、店の前に立つ。目の前には、真新しいアスファルトの道が伸びている。どうやらこの道は、この小さな町をぐるりと一周しているらしい。道には、十五メートル置きに(と、なぜだか正確に知っている)マンホールがある。等間隔で続いていく、銀色のまあるいマンホールのふた。


 あたしは左手に抱えたボールの中のホットケーキのタネを、右手に持ったおタマで掬い上げ、最初のマンホールのふたに、たらりと落とす。
 じゅっと音をたてて、白い湯気があがる。
 かなり温度が高いようだ。
 これは、うかうかしてはいられない。


 焦って次のマンホールまで走っていく。
 おタマで掬い、じゅっと落とす。
 まるいホットケーキが、ふつふつふつと泡を吹く。
 よし、次。
 その次。
 次の次。


 どうにか一周して広場に戻ると、最初に落としたホットケーキはすでに、良い焼き加減。丸い縁が、ちりちりと焦げはじめている。
 ひっくり返さなくちゃ。
 フライ返しで――いつのまに、そんなものを持っていたんだか――パタンとひっくり返したら、ボールの中のおタマを握り、マンホールのふたのあいているところに、またひとつタネを、じゅっと、落とす。
 次のマンホールへ走って、ぱたん、じゅっ。
 その次でも、ぱたん、じゅっ。
 ぱたん、じゅっ。ぱたん、じゅっ。ぱたん……。


 延々と、その繰り返しだけの、長い夢。
 目覚めると、なんだか腕がだるかった。
 足が、やたらに重かった。
 鼻先に、甘ったるい匂いが染みついていた。


 もう何年も前の夢だけれど、「疲れた夢」といったら、いまだにこれを凌ぐモノはない。今でもマンホールのふたを見ると、あの甘い匂いがからだの中によみがえる。
 といって、ホットケーキが嫌いになったわけじゃない。
 時々、無性に食べたくなって、喫茶店で食べたりはする。
 でも、家では焼かない。
 決して、自分で焼いたりはしない。


 あの夜。
 あたしは、一生分のホットケーキを焼いてしまったのだ。

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by mimei14 | 2008-02-21 00:00 | ほんとに見た夢