ユメウツツ@MimeiTagawa

幸福な夢


 臙脂色の絨毯をしきつめた、クラシカルなホテルだった。ロビーに置かれたソファーに座り、あたしは夫とふたり、誰かを、何かを待っている。たくさんの人影が見えるのに、あたりはやけに静かだ。


 行き交う人が、会釈をして通り過ぎる。やあやあと、挨拶にくる人もいる。
 お久しぶりです。
 お元気でしたか。
 笑顔でコトバを交わすのだが、その顔に見覚えはない。
 待っていたのはこの人だろうか。
 いや、違うような気がする。
 何かを忘れているようにも思うが、それが何なのか分からない。


 小さなホールにいくつもの座卓。床はやはり臙脂色の絨毯なのに、なぜかその上に座卓が並んでいるのだ。黒檀の艶やかな座卓。
 夫とふたり向かい合って、食事を採っていると、先ほど挨拶をした男が、大勢の人間を従えてやってくる。ざわざわと空気が賑わう。が、やはり、辺りは静かなのだった。


 笑顔で飲み交わし、笑顔でコトバを交わす。
 だがやはり見知った顔はいない。
 あたし達が待っているのが誰だったのか。
 いや、待っているのは人ではなく……。
 大切なことを忘れているような気がするが、それが何なのか……。


 再び、ロビーのソファーに座っている。
 夫はフロントの前に立ち、精算をしている。
 革のソファーに沈みこみながら、目の前のローテーブルに目をやると、そこには真新しい新聞があった。手にとって眺めるうちに、あ、と思う。
 そうだ。
 思いだした。


 戻ってきた夫に向かって、あたしは言う。


 あなたもあたしも、もう死んでいるのよね。


 夫は、あたりまえのように肯く。
 そうだよ。
 静かにそう言って、笑顔になる。
 その笑顔を見たとたん、あたしは思う。


 よかった。

 そして、ほんとうに晴れやかな気持ちになって、
あたしは夫に言うのだった。


 それじゃ、これからもずっと一緒にいられるのね。


 あたりまえじゃないか、とでもいうように夫は笑い、天を仰ぐ。
 古いホテルの飴色の天井も、ぼんやりと灯っていたシャンデリアも、いつのまにか消え去っていて、そこには空が広がっていた。
 眩いばかりの光に満ちた、どこまでも深い大空だった。


まったく何ていう夢なんでしょか。怖いような、でも、幸福なような。
目覚めは決して悪くなかったのだけれど。
あまりのことに思わずミメオに話してみると、彼はひとことこう言った。
イイ夢じゃん。


うん。
あたしもそう思う(笑)
[PR]
by mimei14 | 2008-02-28 15:51 | ほんとに見た夢