ユメウツツ@MimeiTagawa

カテゴリ:夢写つ(小物語)( 7 )

日記

d0146440_16361793.jpg

d0146440_1649291.jpg


d0146440_16545451.jpg
[PR]
by mimei14 | 2009-08-31 12:49 | 夢写つ(小物語)

古 本 屋


d0146440_13321359.jpg


 

      小さなおばあさんだった。
      親指ほどの。
      埃まみれの棚の端からとことことこと歩いてきて、
      ぽかりと空いた一冊分の闇の奥へと入っていった。


      掴んだ本を戻すに戻せず、
      中途半端に掲げたまま、
      ひとり、途方に暮れる午後。


 
 



Texpo 百文字文学賞 http://texpo.jp/texpo/disp/22128/
[PR]
by mimei14 | 2009-04-19 13:35 | 夢写つ(小物語)

蕎 麦 屋


d0146440_13173828.jpg


 

      お品書きに、小ざる、とあった。
      親子丼とこれひとつ。

     
      運ばれてきたのは、小猿だった。
      椀の中に、ちょこなんと。

     
      帰り道、鼻歌まじりに歩いていると、
      鞄から調子っぱずれな歌が聞こえる。


      ものまね小猿であったらしい。

 
 
 



Texpo 百文字文学賞 http://texpo.jp/texpo/disp/22128/
[PR]
by mimei14 | 2009-04-19 13:25 | 夢写つ(小物語)

あのとき


d0146440_13484012.jpg


 
 

     十字路のまんなかに、ぽつんと小石が転がっていた。
     ひょいとまたいだ僕の横で、彼女は言った。
     ほら、蹴らなかった。あなたはいつもそう。


 
     あのとき、と、いまも思う。


     もしもあのとき、小石をこつんと蹴っていたら。

 
  
  


百文字文学
[PR]
by mimei14 | 2009-04-19 13:00 | 夢写つ(小物語)

夜中の水たまり


d0146440_17124570.jpg



夜中。
水たまりを見つけた。
もう何日も雨は降っていないはずなのに。
朝、仕事に行くときも、夕方帰ってきたときにもなかったのに、住宅街の細い道の真ん中に、落とし穴のようにぽつんとひとつ。


のぞきこむと、暗い水の底に梅が咲いている。ぽんっと弾けたポップコーンみたいな白い花が、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ。
顔をあげると、すぐに見つかった。
傍らのアパートのフェンスから、丈高い梅の木がのぞいている。壁の薄そうな長方形の建物に並ぶ四角い窓は、どれも黒く塗りつぶされていて、そこにもポップコーンみたいな花が白くくり抜いたみたいに映っている。


ふいにヨシオを思い出す。
鉄階段のついたアパートに住んでいた21才のヨシオ。
かんかんかん、と階段をあがっていくと、がちゃっと薄っぺらいドアの把手がまわって、よぉっと、いつも出迎えてくれた。
出迎えてくれなかったのは、一度きりだった。
ふいに訊ねていった夜中。
もう寝ているだろうと思っていたから、出迎えがないのも仕方ない。どうせ鍵もかけていないだろうからと把手をひくと、たしかにヨシオは眠っていた。
ウメコとふたりで。


かさっと微かな音を立てて、枝がゆれる。
目を懲らしてみるが、梅の木には梅の花しか見あたらない。
なんとはなしに視線を落とすと、水たまりの底になにかいる。
鳥だった。
水の中の木の枝に、まあるい目の、あおみどりの小さな鳥。
ミツバチか蝶々みたいにつんつんと梅の花を突いている。
こんな夜中に。


夜行性の鳥なのだろうか。
ただ単に夜更かしなのか。
なんだか眠れなくて、ふらふらと家を出てきただけなのか。


あたしじゃあるまいし。
と、手にぶらさげたコンビニの袋をこそこそ揺らす。


傍らの梅の木をもう一度見あげても、鳥の姿は見あたらない。
水たまりを見おろすと、やはりいる。
つんつんと花をつつくたびに、水面がゆらぐ。
白い花びらが、ふるふると身をよじらせる。


ウメコの肌は、梅の花みたいに、白かった。


あのあと、あたしはどうしたんだっけ。
ヨシオに詰め寄ったんだっけ、ウメコをどついたんだっけ、
大泣きしたんだっけ、それとも何も言わずにドアをしめたんだっけ。


忘れてしまった。


まぁ、いいんだけど。
もう何年も前のことだし。


水たまりの中の枝が大きく揺れて、
なにごとかと覗きこむと、まあるい瞳と目があった。
とんがったくちばしが、ぱかんと開いて、鳥がひとこえ高く鳴く。
うそつき。


う、うそつき?


水たまりに向かって鸚鵡返しにそう言うと、応えるように連呼する。


うそつき、うそつき、うそつき、うそつき。


鳴き終えたら、しんとした。
やれやれすっきりしたとでもいうように、小鳥は大きなあくび(のように見えた)をし、のびのびと羽を広げていく。
と、いきなり水の面がさざなみだち、透き通ったしぶきが飛び散った。


のけぞって驚くあたしの頭をかすめて、鳥が飛び立つ。
ばさばさばさと羽音をたてて、夜気を散らし、
古びたアパートの屋根の向こうへ消えていく。


波紋の丸い輪がゆっくりとおさまって、またぽっちりと白い花が咲いている。
水たまりの中の夜は、さっきより澄んで、くっきりと黒い。


とぶとりあとをにごさず。


呟きながら、冷たい頬に手をあてると、びしょ濡れだった。
泣いているのかあたし、と、焦ったけれど、いや水たまりの飛沫に濡れただけだ、と、気づいて笑う。そうだ。そうにきまってる。


どこかでまた、鳥が鳴く。


うそつき。






[PR]
by mimei14 | 2009-03-02 16:51 | 夢写つ(小物語)

深夜に深呼吸するやかん

d0146440_2591977.jpg



 こと子はいつもやかんに水を張っておく。八分目ほど。
 「もしも」に備えて。
 もしも水道管が破裂したら。
 もしも蛇口がひねくれたら。
 もしも水道水がアルコオルになったら。
 (それはそれでうれしいけれど)


 深夜。
 お湯を沸かしたくなる。

 八分目の水を一分ほど捨て、
 蛇口をひねり、水をつぎ足して九分目にする。
 じっと沈黙したまま出番を待っていたやかんの水に、
 新鮮な酸素を送り込むため。
 そうすると停滞していた水がにわかに活性化されて、
 元気になるような気がするのだ。


 新鮮な水を足すと、やかんはちょっと冷たくなる。
 ガス台に置くと、かすかなため息が聞こえてくる。
 銀色のからだを、ゆっくりと膨らませて、もとに戻る。
 

 やかんが深呼吸したのだった。

 
 ほうら、やっぱりね、と、
 息を吹き返したかのようなやかんに満足し、
 かちり、と、火をつける。
 と、
 傍らで見ていた慎が言った。

 なんか、残酷だね。

                       そうかもしれない。



 
[PR]
by mimei14 | 2008-11-19 02:00 | 夢写つ(小物語)

雨の匂い


d0146440_3512648.jpg


 何してるの。
 慎の電話はいつもそこから始まる。今、何してるの。
「家籠もり」と、こと子が答えると、受話器の向うから、ふふっと息だけの笑い声が聞こえてくる。だと思った、雨降りだからね。そう、雨降りだから。うん、じゃあ、ね。


 あっさりと電話が切れて、部屋の中の静けさが、電話を取る前よりもほんの少し濃くなった。レースのカーテンを開けはなした窓には、小さな雫が水玉模様をつくっているけれど、雨音は聞こえない。無声映画のように、雨はただ細い線を引いて降るばかりだ。


 やかんを火にかけて、お湯を沸かす。冷蔵庫から「しょうがジャム」を出して、こぶりのマグカップにスプーンで二杯。「しょうがジャム」は友人からの贈り物で、この冬はこの「しょうが茶」ばかり飲んでいた。すっかり春が来た今、瓶の底にはあと二、三杯分しか残っていない。その分だけ、肌寒い日がくるのかもしれない。今日みたいな花冷えの日が。


 花冷えは苦手だ、と、こと子は思う。菜種梅雨も嫌い、と。冬の寒さは覚悟しているから良いけれど、春のひんやりとした薄寒さは合点がいかない。裏切られたような気持ちになって、からだ中がざわざわしてしまう。
 やかんが、しゅんしゅんと湯気をはきだしたところで火をとめる。と、玄関のチャイムが高らかに鳴る。インターホンを取ると、案の定、慎の声がした。お届け物です。


 はい、お届けもの。そう言って慎が差しだしたのは、猫ほどの大きさがある新聞紙の包みだった。台所であけてみると、出てきたのは青々とした「そらまめ」だった。やわやわとした、莢つきの。


 並んで眺める慎に、「雨の匂いがする」と言うと、そう? と首をかしげ、長身のからだを折り曲げて、そらまめに顔を近づけようとする。そうじゃなくて。こと子は笑いながら、慎の腕を引く。雨の匂いがするのは、そらまめじゃなくて慎のほう。あ。そう? そうかな。スェットに包まれた腕を鼻先に持ちあげて、すんすんと匂いをかぎながら首をひねっている。雨の中にいた人に、雨の匂いは分からない。閉ざされた部屋の中にいるからこそ、忍び込んできた匂いに気づくのだ。


 リビングの小さなテーブルに向かう慎の背中に、「しょうが茶、飲む?」と聞くと、飲む、と振り向かずにうなずいた。うなずいても、うなじは髪で隠れていて、ずいぶん床屋さんに行ってないのだな、と思う。仕事がたてこんでいたんだろうな、とも。
 こと子も慎も、お互いの暮らしぶりをあまり知らない。必要以上に立ちいらないようにしているのは、出会った頃から変わらない。お互いにそういう性分なのだ、と、こと子は思っている。人と人のあいだには、ちょうどいい距離というものがあるのだと。


 戸棚から慎専用のマグカップを取りだして、しょうがジャムを入れる。マグカップは、いつだったか慎が自分で持ってきた。一日体験陶芸教室の取材撮影に行ったとき、どうしてもやってみたくなって自ら「体験」したのだという。所々深海のような蒼がまざった焦げ茶色のそれは、やはり小ぶりだったけれど、色も手触りも力強かった。いつだって、あっさり、ひょうひょうとしている慎が生み出したものとは思えなかった。「ここに置いておいてもいい?」 そう訊くのも、なんだかいつもの慎らしくないような気がして、こと子は少しうろたえた。うろたえながらも、「もちろん」と答えていた。
 でも、だからといって何も変わらなかった。恋人のようでもあり、そうでないような気もするふたりの間柄は、マグカップを並べてみたところで何ひとつ変わらない。


 やかんをもう一度火に掛けて、湯気がたつのを待つ。慎はテーブルの上にあった新聞を読んでいる。天井からさがるライトに照らされた慎の顔と手と新聞紙が、やけに白っぽい。
 まるで雨の日の教室みたいだ、と、少し懐かしくこと子は思い出す。音もなく降る雨に閉ざされた教室は、いつも白々と明るかった。誰もがなぜか、ひそひそ声でことばをかわし、無音ではないのに静けさに満ちていた。あの静けさが好きだった。妙に静かで、でも、安心で。


 勢いよく湯気があがり、やかんの蓋がかたかたと震える。火をとめて、マグカップにそそぎ、スプーンでかきまぜる。ゆっくりと溶けていく黄金色のジャムを眺めながら、これで花冷えの日が一回分減ったかも、と、少し安堵する。
 かさりと静かに新聞をめくる音がして、マグカップからたちのぼる湯気がゆらぐ。うす甘い匂いのする湿ったそれは、春の雨の匂いによく似ている。





雨が降って久々に「家籠もり」したら、なんとなく浮かんできたので書いてみました。特にどうということもないモノガタリを時々書きたいな、と。次がいつになるか分かりませんが(笑)
[PR]
by mimei14 | 2008-04-08 17:22 | 夢写つ(小物語)