ユメウツツ@MimeiTagawa

カテゴリ:ほんとに見た夢( 12 )

一生分のホットケーキ


 夢の話しをしようと思う。
 今まで見た夢の中で、心底、疲れた夢。


 小さな町の広場の真ん中に、小さな店がぽつんとある。
 小さな箱のような店には、大きな窓があり、その中ではミメオ(夫です)が、手際よくソフトクリームを絞り出している。しゅるしゅると、いくつも、いくつも。次々に並んでいくソフトクリーム。――お客もいないのに。

 あたしの仕事は、ホットケーキを焼くこと。

 ホットケーキのタネの入ったおおきなステンレスのボールを抱え、店の前に立つ。目の前には、真新しいアスファルトの道が伸びている。どうやらこの道は、この小さな町をぐるりと一周しているらしい。道には、十五メートル置きに(と、なぜだか正確に知っている)マンホールがある。等間隔で続いていく、銀色のまあるいマンホールのふた。


 あたしは左手に抱えたボールの中のホットケーキのタネを、右手に持ったおタマで掬い上げ、最初のマンホールのふたに、たらりと落とす。
 じゅっと音をたてて、白い湯気があがる。
 かなり温度が高いようだ。
 これは、うかうかしてはいられない。


 焦って次のマンホールまで走っていく。
 おタマで掬い、じゅっと落とす。
 まるいホットケーキが、ふつふつふつと泡を吹く。
 よし、次。
 その次。
 次の次。


 どうにか一周して広場に戻ると、最初に落としたホットケーキはすでに、良い焼き加減。丸い縁が、ちりちりと焦げはじめている。
 ひっくり返さなくちゃ。
 フライ返しで――いつのまに、そんなものを持っていたんだか――パタンとひっくり返したら、ボールの中のおタマを握り、マンホールのふたのあいているところに、またひとつタネを、じゅっと、落とす。
 次のマンホールへ走って、ぱたん、じゅっ。
 その次でも、ぱたん、じゅっ。
 ぱたん、じゅっ。ぱたん、じゅっ。ぱたん……。


 延々と、その繰り返しだけの、長い夢。
 目覚めると、なんだか腕がだるかった。
 足が、やたらに重かった。
 鼻先に、甘ったるい匂いが染みついていた。


 もう何年も前の夢だけれど、「疲れた夢」といったら、いまだにこれを凌ぐモノはない。今でもマンホールのふたを見ると、あの甘い匂いがからだの中によみがえる。
 といって、ホットケーキが嫌いになったわけじゃない。
 時々、無性に食べたくなって、喫茶店で食べたりはする。
 でも、家では焼かない。
 決して、自分で焼いたりはしない。


 あの夜。
 あたしは、一生分のホットケーキを焼いてしまったのだ。

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by mimei14 | 2008-02-21 00:00 | ほんとに見た夢

失われた夢

深い、深い森を走っていた。
青い植物の匂いが、まとわりつく。
柔らかな土。
朽ちた葉。


あたしは何かに追われているのだ。
誰かにずっと追われている。
それが何なのか 誰なのか、
まったく分からないのだけれど、
切羽詰まっていることは確かだ。


ふいに森が途切れると、
そこは断崖絶壁だった。
のぞきこむと、
どこまでも深く、果てしない空間の、
底は海なのか陸なのか、
それさえも分からぬくらいの、
蒼褪めた空洞。


どうしよう。
立ち尽くしていると、追っ手の気配。
どうしようどうしようどうしようどうしよう。


と、背中から何かがぶつかってきて、
あ、と思ったその刹那、
あたしは中空に舞っている。
ふっと気が遠くなり、
ただただあたしは落下していく。

そこで、目覚める。

子どもの頃から、繰り返し見た夢。
あまりに何度も見るもので、
ある日、自分から崖に飛び込んでみた。
ここで落ちれば、夢は終るのだから、と。


果たして、夢は終り、
あたしは目覚めた。
見事に夢から脱出したのだった。
そしてそれから、その夢を見なくなった。
跡形もなく消えてしまった。
二度とわたしの眠りの中に、同じ夢は現れなかった。


あたしは、いったい何から逃げていたのだろう。
それさえ定かではないというのに、
自ら土を蹴ってしまったわたしは、
ひとつの夢を失ってしまった。


だからなのか、
今もまだ、蒼褪めた中空を、
墜ち続けているような気がしてならない。


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by mimei14 | 2008-02-20 23:38 | ほんとに見た夢