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こと子はいつもやかんに水を張っておく。八分目ほど。
「もしも」に備えて。
もしも水道管が破裂したら。
もしも蛇口がひねくれたら。
もしも水道水がアルコオルになったら。
(それはそれでうれしいけれど)
深夜。
お湯を沸かしたくなる。
八分目の水を一分ほど捨て、
蛇口をひねり、水をつぎ足して九分目にする。
じっと沈黙したまま出番を待っていたやかんの水に、
新鮮な酸素を送り込むため。
そうすると停滞していた水がにわかに活性化されて、
元気になるような気がするのだ。
新鮮な水を足すと、やかんはちょっと冷たくなる。
ガス台に置くと、かすかなため息が聞こえてくる。
銀色のからだを、ゆっくりと膨らませて、もとに戻る。
やかんが深呼吸したのだった。
ほうら、やっぱりね、と、
息を吹き返したかのようなやかんに満足し、
かちり、と、火をつける。
と、
傍らで見ていた慎が言った。
なんか、残酷だね。
そうかもしれない。
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by mimei14
| 2008-11-19 02:00
| 夢写つ(小物語)
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